福島第一原発事故のあと、私はいたたまれない気持ちで旅にでました。
世界の核実験被害地や原発大国フランスをめぐり、どうして私たちはここまで来てしまったのかを考えたかったのです。


その旅の記録を2014年に『わたしの、終わらない旅』という作品にまとめました。その中で、見えて来たのは核に翻弄されてきた20世紀後半の世界でした。広島、長崎に落とされた原爆が「平和利用」の名のもとに原子力と名前を変えて、発電所という形で、日々の生活に入り込んできたのです。


タイトルが示す通り、映画の完成後も私の旅は続きました。私たちはこれからどこへ向かうのか? 答えを求めて、私はドイツを目指しました。脱原発を宣言し、自然エネルギーの先端を行くドイツ。そこに明日へのヒントがあるのではないかと思ったのです。


70年代にはドイツでも多くの原子力関連施設の建設計画がありました。各地で起こった抵抗運動の推進力となったのは1968年世代の学生たちで、彼らはのちに緑の党という政党の誕生に深く関わることになりました。そして、多くの人が環境問題、反原発の運動を継続してきました。権威に服従せず、自分で考え自分の足元から始める。過去に目をつぶらず、過去の反省から将来のあるべき姿を倫理的に考える。ドイツを脱原発に導いたのはメルケル首相の力だけではなく、50年来のドイツ市民の草の根の運動があったからなのです。


日本とドイツ、簡単には比べられませんが、私たちがドイツに学び、実践できることはきっとあります。ドイツの旅は、小さな私たちが世界を変えることができるのだという勇気を与えてくれました。「私」の小さな一歩が大きな変化に結びつくのです。その思いをこの映画を通して皆さんと分かち合いたいと思います。


Morgen, 明日に希望を持ち、そこへ向かってともに一歩を踏みだしましょう。








坂田雅子(さかた・まさこ)


ドキュメンタリー映画監督。1948年、長野県生まれ。65年から66年、AFS交換留学生として米国メイン州の高校に学ぶ。帰国後、京都大学文学部哲学科で社会学を専攻。1976年から2008年まで写真通信社に勤務および経営。2003年、夫のグレッグ・デイビスの死をきっかけに、枯葉剤についての映画製作を決意。ベトナムと米国で取材を行い、2007年、『花はどこへいった』を完成させる。本作は毎日ドキュメンタリー賞、パリ国際環境映画祭特別賞、アースビジョン審査員賞などを受賞。2011年、NHKのETV特集「枯葉剤の傷痕を見つめて〜アメリカ・ベトナム 次世代からの問いかけ」を制作し、ギャラクシー賞、他を受賞。同年2作目となる「沈黙の春を生きて」を発表。仏・ヴァレンシエンヌ映画祭にて批評家賞、観客賞をダブル受賞したほか、文化庁映画賞・文化記録映画部門優秀賞にも選出された。2011年3月に起こった福島第一原発の事故後から、大国の核実験により翻弄された人々を世界各地に訪ね、取材を始める。2014年、それらをまとめ『わたしの、終わらない旅』として発表している。